今日も制作の話。
前回の記事を書いたおかげで、久しぶりの人から連絡が来たり感謝されたりしたので。
今回は……
✔0→1を生み出すのが苦手
✔かっこいいものを作る自信はあるけど言語化して説明できない
というクリエイター、企画提案を担当することになった人に向けた「武器」を提供します。
「印象に残る動画を作って下さい」
とある案件で、「印象に残る動画を作って下さい」というオーダーをいただく機会がありました。
シンプルだけど、難しい注文です。
とはいえ、こういう抽象的な依頼、けっこうありますよね。
実際にいろいろと考えて提案してみたら
「これは違う気がしますね」
「惜しいんですけどね」
「前の方が良かったですね」
と、さながら「担当者の考えてること当てクイズ」になってしまう可能性も。
そうならないためには、制作側とクライアントが共有できるロジックが必要です。
はじめに全体設計をしよう
今回は、「相手は言葉に言い表せないだけで、選択肢を用意すればもう少し具体的なオーダーに絞り込めるのではないか?」という仮説を立てました。
そこでまず最初に、「印象に残る」ってどういうことか?というところから考えることにしました。
目的に最短で向かうためには、はじめに全体設計をする必要があります。
絵で例えると、猫の絵を描くのにいきなり背中の毛一本一本から描きはじめませんよね。
通常、まず画面のどのあたりに顔を入れるかなど全体を見渡しながら下描きし、構図が固まってから細部にとりかかります。
この全体設計=提案の下描きが武器になります。
今回でいえば、次のような順番で「印象に残る動画の下描き」をします。
手順①「印象に残る」を分解する
「印象に残る」を言い換えると、
どれも心が大きく反応するという意味ですね。
では、人の心の変化にはどんな種類があるのでしょうか。
感情表現を分類する方法を調べたところ、「感情表現辞典」という感情表現専門の辞典がありました。
感情表現辞典では、感情表現を大きく10コに分類しています。
喜
愉快,楽しい,明るい,爽快,すっきり
怒
面白くない,殺意,不愉快,気持ちが悪くなる
哀
悲しい,泣く,しんみり,虚しい
怖
怖い,不安,恐怖,どきどき,はらはら
恥
照れくさい
好
愛,友情,恋心,恋
厭
鬱,後味が悪い,不愉快,暗い,苦悩,困惑
昂
緊迫,緊張,揺れる,躍り上がる,感動,興奮
安
和む,落ち着く、安らぐ
驚
驚く,仰天,ショック,驚愕
中村明 「感情表現辞典」より
さて、これで視聴者の感情を10に分類できました。
手順②どの感情にさせるのが適切かを絞る
どんな広告でも、商品を買ってもらえるように「観るひとの心の変化を起こしたい」から作りますよね。
例外を除いて、ネガティブな印象を与えたくないので「怒」「哀」「怖」「恥」「厭」は避けたほうがいいでしょう。すると「喜」「好」「昂」「安」「驚」が残ります。
この5つの感情表現をさらに分解することで、「印象に残す」方法には特殊なものも含め10の要素があるのではないかと考えました。
テレビCM,ウェブ動画の具体例を交えて紹介したいと思います。
手順③視聴者の「印象に残る」10の要素を固める
喜―愉快,楽しい,明るい,爽快,すっきり
楽しい
https://www.youtube.com/watch?v=o2ta8QYjEeU
すっきり
https://www.youtube.com/watch?v=t8_Tny_3YhA
昂―緊迫,緊張,揺れる,躍り上がる,感動,興奮
感動
緊張
安―和む,落ち着く,安らぐ
和む
https://www.youtube.com/watch?v=iw0imFofsXE
納得
https://www.youtube.com/watch?v=mpQeMVCGnnU
驚―驚く,仰天,ショック,驚愕
衝撃
新鮮
https://www.youtube.com/watch?v=KBqW_gWaipA
他
混乱
刷込
テレビCMで有名曲の替え歌がよく使用されるのもこれに当たるでしょう。
手順④要素の組み合わせを考える
実際の制作物を見ると、10の要素を組み合わせていることが分かりますね。
これらの要素を使って、クライアントとどんな方向が正解なのかを絞っていきます。
大人数で振り付け、謎のハイテンション、繰り返されるフレーズ…
手順⑤具体的な企画提案をする
さて、これで下描きが完成したので、具体的な企画提案の準備に入ります。
手順①~④をクライアントと探っていくうちに、おおよそどのような方向性でいくかは共有できているはずです。
幹となる要素の確認を経た上で、「どんなターゲットにどんな感情になってもらうか」を意識しながらプロジェクトを進めれば、議論が右往左往しても基本に戻ることができます。
これが制作を進める上で大きな武器になるのです。
走り出す前に前提を共有しよう
自分としては会心のアイディアで、相手も喜んでくれるに違いない!とプレゼンに臨んだものの、「ポカ~ン」とされたことはないでしょうか?
それはその企画自体が悪いのではなく、双方が同じ前提を共有していないことが原因なのかもしれません。
今回の方法論は、クリエイターとクライアントが同じ土俵に立つためのひとつじゃないかなと思います。
―と書いておいて、これに似た方法論で臨んで失敗したときの話もあります。
別の機会で、以下の本を参考に「なぜ私達の会議は議論が散らかるのか?」「なぜ”伝えたはずが伝わらない”が起きるか」について失敗経験から得た教訓を書きたいと思います。